2018年10月12日

『蔦屋』(谷津矢車・著)

麺1012。 「晴れると思ったのに…。
 朝から雲が覆って,“寒~い日”でした。天気予報には「晴れ」もあったと思うのですが,そうではありませんでした。
 体の温まる食べ物が恋しくなる天候でした。

 今日の寒さには体が驚いていました。気温の変化にうまく合わせて過ごしたいと思います。
 みなさんのところは,寒くなかったですか。



 図書室の書架で見かけた『蔦屋』(Gakken・刊)を読みました。
 以前,「画のない漫画を読んでいるような感覚だった。」と書評にあった記憶がありますが,その通りでした。

 江戸時代の代表的な版元 蔦屋重三郎の生きざまを,地本問屋 小兵衛を通して描かれます。
 「あたしァ 江戸をそっくり吉原にしてやろうと思ってるんだ
 蔦重(蔦屋重三郎)が手がけた話題作にかかわる大田南畝,恋川春町,山東京伝,喜多川歌麿,葛飾北斎,東洲斎写楽なども登場します。当然ですが,駆け出しから売り出し,人気作家・絵師としての成長(?)も,蔦重の“ねらい”に乗って出てきます。
「あの商人さんは,字は読めるっていうのに本は読まない。つまりは,本を読むっていうのは,あの人にとっては娯楽でもなんでもない雲の上の物事なんですよ」
「あー,それはなんとなく分かった」お春は手を叩いた。「でも,それが何?」
「でも,あの人,講談や落語は聞くって言ってた。ってことは,あの人だって,作り話が嫌いなわけじゃない。それどころか結構すきなんですかね」
 言われてみればそうだ。
「ああいう,本は読まないけれど作り話が好き,っていう人たちを戯作の世界に引きずり込めば,相当の売り上げが期待できるんじゃないでしょうか」


 魚屋のようすを見て,そこにヒントを見出し,作品(商売)を考え出します。
 山師,ともいえる。
 だが,小兵衛の心中に湧き上がる言葉は,そんな俗っぽいものではなかった。重三郎が本に向ける思い,それは,商いとはかなり距離のある何か。そう,それはさながら,祈りにも似ていた。届くはずのない祈り。あるいは,大群に一騎駆けでも挑もうとする武者の気宇にも似ている。
 この“祈り”から話題作が生み,人気作家となる人を見出してきたのでしょう。
「それに」重三郎は悪びれずに云った。
「そっちの方がおもしろいからに決まっているでしょう?」
 まるで,風みたいなやつだ。小兵衛は心中で呟いた。
 捉えどころがなく,掴もうとすればもうそこにはいない。そのくせ,懐にひゅるっと忍び込んできて,こちらの脇をくすぐっていくのだ。
 そんなあんただから,俺は──。
 「そっちの方がおもしろいから」と選ぶ。考える。そういう生き方は,楽しいだろう。
 重三郎の“見えているもの”が,同じように見えたら,それは辛いのかもしれないが,わくわくする気持ちが勝ることだろう。そして,時間は,どれだけあっても足らないかもしれない。

 選ぶのは「おもしろい」ものを。そして楽しい生き方をしていこう。
蔦屋1012。



【関連】
  ◇『蔦屋』(谷津矢車・著)(Facebook)
  ◇谷津矢車(戯作者/小説家) (@yatsuyaguruma)(Twitter)


タグ :読書

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Posted by ガク爺 at 19:30│Comments(0)読書
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