2025年02月24日
『秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚』(木下昌輝・著)

江戸時代、こんなにややこしい殿様は他にいなかったかもしれない。
小藩から25万石の大藩に養子入りし、苛烈な藩政改革に取り組んだ。
誰にも負けぬ弁舌と知識、厳しい倹約令と公共投資の両立、当時の身分制度を破壊する新法、そして、どこにもない市を生み出そうとしたが……
蜂須賀重喜という男が愚者なのか賢者なのか、勝者なのか敗者なのか。
皆様の目で確かめてください。
三十万両もの巨額の借財を抱える徳島藩。藩政改革を担ったのは、型破りな人物だった。
徳島藩蜂須賀家の物頭、柏木忠兵衛は新藩主候補との面会のため、江戸に急いだ。藩の財政はひっ迫している。新たなまとめ役が必要だった。
しかし―。「政には興味なし」新藩主となった蜂須賀重喜はそう言い放つ!家老たちの専横に抗して、藩主の直仕置による藩政改革をめざす忠兵衛ら中堅家臣団。対立が激化するなか、新藩主が打ち出した驚きの改革案とは!?そして、徳島藩を狙う大がかりな陰謀とは…。
アクション&サスペンス満載、著者渾身の時代長篇!
題名の「秘色」に、表紙にも背にもフリガナが付いていましたが、それに気づかず「ひしょく」と思い込んでいました。
“ナゾの色”あるいは“ヒミツ”が縁を結んでいくのだろうと予想しながら、本を開きました。
目次に続いて、見開きで「秘色の契り 人物表」がありました。このような人物表や相関図の載る物語は、「これは誰だっけ?」と何度も見直すことになるので、早速コピーをして、すぐ確認できるようにしました。

人物表の最初に載るのは、阿波国徳島藩第十代藩主 蜂須賀重喜です。実在の人物で、徳島藩四羽鴉と呼ばれた柏木忠兵衛、樋口蔵之介、林藤九郎、寺沢式部が、徳島藩の復興を期して佐竹家分家新田藩から迎えました。
巨大な借財にあえぐ徳島藩は、お飾りの藩主を据えて五大老が牛耳っており、徳島藩の特産物「藍」を作る職人が、大阪商人の餌食になっていました。
その商人が、表紙に描かれていた人物のようで、新しい藩主候補を探しに向かう忠兵衛が(最初に)船で出会った金國屋の金蔵です。
商人が武家を使うというのか、この男のいう話が、全く理解できない。このときの忠兵衛には不思議な話でしたが、物語の後半で…。
「下手すりゃ、この国もえげれすの商人に食われるかもしれまへんで」
「この国?」と、忠兵衛は復唱した。
「ええ、さいだす」
藩主になりたくなかった重喜ですが、第十代藩主となってからは“新しい法度”により藩政改革を一気に進めようとします。
一体、幾度目の休息であろうか。もう柏木忠兵衛にも分からない。二日前の昼から始まった衆議は、波乱がつづいた。三塁の制という忠兵衛らさえ聞いたことがない法度は、改革に賛成だった家臣たちでさえ反対に回るほどだった。夜を徹した衆議は、翌日になっても終わらず(略)混乱の続く徳島藩の改革は進むのか…。
「秘色(ひそく)」は、藍染めから生まれる特別な色を指し、物語の重要なテーマです。
その「秘色(ひそく)の契り」は…。
徳島藩の「藍」は…。
本書は物語で、史実とは異なる部分もあるでしょうが、“蜂須賀重喜の行った再興(改革)”が、現代の日本経済、日本社会に求められている気がしました。
どこかに隠れている“現代の重喜と四羽鴉”を見つけ出すときではないでしょうか。
映画化、ドラマ化が楽しみな作品でした。お薦めの物語です。
目次
一章 末期養子
二章 五社宮一揆
三章 船出
四章 明君か暗君か
五章 蝿取り
六章 呪詛
七章 謀略
八章 密約
九章 藍方役所
十章 血の契り
十一章 主君押し込め
十二章 空の色
【関連】
◇木下昌輝@歴史エッセイ本4月発売!! (@musketeers10)( X )
◇直木三十五賞(公益財団法人日本文学振興会)
◇とくしまヒストリー ~第22回~(徳島市公式ウェブサイト)
タグ :読書
2025年02月23日
天皇誕生日。 地区総会。 『保健室には魔女が必要 MMMの息子』(石川宏千花・著)

そして、日本の「国家の日」「ナショナル・デー(National Day)」です。
昨日の午後、地区の総会(改選)がありました。
例年のように、本年度の活動、会計の報告があり、協議事項、議題の審議、次年度の組織など検討、決定しました。
高齢化の進む地域で、新たな“継承”があり、次への“勢い”が出るように提案があり、さまざまな視点や立場から声があり、長い協議となりました。
それぞれが“正しいこと”ですが、日ごとに高齢化していくなかで“持続可能な最適解を見出すのは難しいことです。
総会では、久しぶりに会う方もおり、いろいろな話をうかがえました。ありがとうございました。
子供達は、保健室の先生が好きです。ケガしたり、苦しくなったりしても、保健室で休んだらスッキリします。
“保健の先生”は、魔法使いなのでしょうか。
児童書コーナーにあった『保健室には魔女が必要 MMMの息子』(石川宏千花・著)を手に取りました。
主人公は、中学校の保健室の先生にして魔女。
考案する「おまじない」を流通させ、もっとも定着させた魔女が選ばれる七魔女決定戦に参加している。
魔女たちとの交流、魔女狩り団体MMMに関係する少年の出現、そして七魔女決定戦にも新たな展開が!
もろくて、かたくなな悩める中学生におくる連作短編集シリーズ、第2作。
今回の悩みは
★友だちばかりほめられるのが気になる
★将来の夢がない
★みんなとノリがあわない
★女の子らしい子になりたい
★だらだらしていると怒られる
★自分をみじめだと思ってしまう
それぞれの話は、
わたしは魔女だ。で始まります。
保健室の先生でもある。
魔法で何かを解決したり、何かを倒すことをするのではなく、日々「おまじない」を考案しています。
そのおまじないを、保健室に来る生徒に授けます。
悩める中学生たちの話に耳を傾け、時にはとっておきの“おまじない”を伝授する。なぜなら自らが考案する“おまじない”を流通させ、もっとも定着させた者が七魔女の最後のひとりに選ばれるから……。
一話が短く、短い時間で楽しめます。小学生の読み物としてぴったりです。
大人が読んでも楽しめます。
あなたも、みんちゃん先生の“おまじない”を聴きたくありませんか。
もくじ
ほめ上手になるおまじない
夢が見つかるおまじない
ノリがよくなるおまじない
女の子らしい子に なれるおまじない
だらだらしてても 怒られなくなるおまじない
自分をみじめだと 思わなくなるおまじない
【関連】
◇石川宏千花 (@hirochica_no)( X )
【おまけ:日経社歌コンテスト2025】
今年の「日経社歌コンテスト2025」の決勝が、2月27日(木)に開催されます。
大賞に輝くのは…。
◇日経社歌コンテスト(日本経済新聞)
◇日経社歌コンテスト (@shaka_contest)( X )
2025年02月22日
『笑う森』(萩原浩・著)

5歳の男児が神森で行方不明になった。
同じ一週間、4人の男女も森に迷い込んでいた。拭えない罪を背負う彼らの真実と贖罪。
原生林で5歳のASD児が行方不明になった。1週間後無事に保護されるが「クマさんが助けてくれた」と語るのみで全容を把握できない。バッシングに遭う母のため義弟が懸命に調査し、4人の男女と一緒にいたことは判明するが空白の時間は完全に埋まらない。
森での邂逅が導く未来とは。希望と再生に溢れた荻原ワールド真骨頂。
読み終えて、本書が“読書メーターOF THE YEAR2024”の一冊に選出されていたことを知りました。納得の一冊です。
表紙は暗い森が描かれ、大木の前に立つ子供、その大木に隠れるように題名が書かれています。
中表紙には、ミニカーの列が描かれています。このミニカーと表紙の子供は…。
物語は、「小樹海」とネットで呼ばれている神森で行方不明となった5歳の男児を、下森消防団団員の田村武志が探す場面から始まります。
行方不明から一週間が過ぎた11月19日、「合体樹」の根と根が交錯してできた空洞で、5歳児を武志が発見しました。
5歳児が一人で一週間を生き抜きました。奇跡です。

行方不明になった日…。
深夜、午前0時少し前に「本日の操作はここまでです」と告げられます…。
二日目…。
五日目…。
岬(母親)は些細な情報でも得たいと見ていたネットに、岬や真人に関する噂が…。
真人は、一週間過ぎて発見されたのに、衰弱はなく、食べ物を摂っていたようです。
何を食べていたの?“くまさん”とは何? 誰? …
「ごはん、しらないおかし」
誰にもらったの、と聞くと、
「くまさん」
神森に真人が行方不明になっていた一週間、神森に他の人、ものがいました。
死体を遺棄しにやって来た美那…
YouTubチャンネルでソロキャンプを配信している戸村拓馬…
組の上納金を盗み、逃走中の谷島…
神森を死場所と定めた畠山理実…
そして、森の…
彼らが、それぞれ真人と遭遇していました。
そのとき…。
真人の1週間、何があったのか。それを、母親の岬、叔父の冬也が追っていきます。そこにYouTuberの拓馬が加わり、明らかになったのは…。
子供の行方不明から始まり、殺人や暴力団、いじめ、自殺…と事件(?)が続きますが、登場人物の言葉や行動にくすっとし、純真な真人の言葉と行動そして成長に、心に優しい風が吹き込むような気持がしました。
厚い本ですが、その文量を気にせず読み切れる物語です。
みなさん、お薦めです。
【関連】
◇本好き”が選ぶ!文芸・小説 おすすめ本年間ランキング!読書メーターオブザイヤー2024-2025(読書メーター)
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2025年02月16日
『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(さわぐちけいすけ・マンガ 他)

働く現場で感じる「恥」「怒り」「涙」…ぜんぶ経営学に答えがある!
仕事やキャリアのモヤモヤを最新の経営学で解決する日経WOMANの大人気マンガ連載を書籍化。
『僕たちはもう帰りたい(ライツ社)』『だからお前はダメなんだ(大和書房)』など、人々の感情の機微を軽妙に捉えるマンガでツイッターフォロワー18万人のさわぐちけいすけさんと『世界標準の経営理論(ダイヤモンド社)』『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学(日経BP)』などのベストセラーを世に出す経営学者・入山章栄さんのタッグでお届け。
MBAよりもリアルな新時代のバイブルです。
はじめにで
この本を読んだからと言って、明日からみなさんのキャリアが急に飛躍することは、おそらくないと思います(もしかしたらそういう方もいるかもしれませんが)。と、経営理論が身についたり、キャリアアップできるものではないと断って(逃げをうって)いました。
でも少なくとも、多少はスッキリして、心がラクになることを僕は期待しています。
読んでみると…。
各話とも、まず仕事(働く)の中でのモヤモヤ、イライラが4ページのマンガで描かれます。続く3ページで、モヤモヤやイライラを経営理論に当てはめ、登場人物との会話で説明(解説)が進みます。
例えば、第1話、第2話はコロナ禍に掲載されたであろうリモートワークでのすれ違いです。
これらを「感情のコミュニケーションの理論」や「心理的安全性」に当てはめて説明しています。
説明を聞いた登場人物は、
なるほど。と、イライラへの対応を見つけ、前向きに動き出そうとします。
リモート時代だからこそ、意図的に (略) ほうがいいのか…。
提案してみよう。
経営理論と聞くと難しそうですが、20話に出てくる説明は、分かりやすい言葉でされています。
もう少し詳しいことを知りたくなって、他の本(専門書?)を読んでみようと思う人も出てきそうです。
明日の仕事が楽しくなる話(?)が聞ける図書です。
今日のモヤモヤが、もや~ぐらいにはなりそうです。
目次
はじめに
第1話 すれ違う、リモート生活
第2話 ウェブ会議は終わらない
第3話 副業はお金のためだけ?
第4話 ミスした日はお祝いを
第5話 思考の整理は誰かと共に
第6話 飲み会で、思わすため息
第7話 決意はダイエットの敵?
第8話 サボる私に足りないのは
(略)
第16話 大きく変わりたいのに
第17話 組織を動かす小さな一歩
第18話 仕事相手を断捨離したら
第19話 計画がうまくいかない時
第20話 働く私たちの頼れる味方
経営学者のつけたし解説
【関連】
◇さわぐち けいすけ (@tricolorebicol1)( X )
【おまけ】
今月2日(日)に「2025年度(第23回)全国穴掘り大会」が開催されました。
この大会、ご存じですか。
穴を掘る、穴を掘る、ひたすら穴を掘る…
結果はこちらで
優勝は『株式会社 暁工業 チーム201』
2025年02月15日
『三国志を歩く中国を知る』(坂本信博・著)

西日本新聞社は福岡県に本社があり、新聞を目にする機会は限られますが、興味深い特集や連載、コラムが載っています。特に印象に残っているのは『いのちをいただく』(2009)で、絵本などにもなりました。
連載などが書籍化されるのを楽しみにして西日本新聞社の図書を気にしています。
『三国志を歩く中国を知る』(西日本新聞社・刊)は、北京特派員の連載をもとにした図書です。
今の中国を見つめる冒険の書
三国志好きの著者(新聞記者)がゆかりの史跡・名勝、緊張走る国境地帯や新疆ウイグル自治区などを歩き、現代中国の深部に迫った渾身のルポルタージュ
三国志は大好きだけど、今の中国はよく知らない、興味がない、という人は多い。とはいえ、今や世界第2位の経済大国であり、日本にとって最大の貿易相手国である隣人・中国について知ることは、これからの日本の活路を考える上で欠かせない。
そこで、日本人に身近な存在である三国志の舞台となった地を巡り、中国の今を見つめる旅に出たいと考えた。
2020年8月から3年間、コロナ禍の中国に赴任した著者が30省・自治区・直轄市を訪れ、のべ114都市を踏破した。
本書は、2022年9月から2023年8月まで西日本新聞で連載した長期企画「三国志を歩く 中国を知る」を再構成し、書き下ろしも含めて大幅に加筆したものを軸としている。
三国志と三国志演義の基礎知識をおさらいする「正史と演義」、現代中国に残る三国志の聖地を巡った「三国志聖地巡礼」、現代中国の国境地帯を中心としたルポ「三国志の周縁地を歩く」に、コラム「意外と知らない中国の素顔」を織り交ぜている。
巨大で奥深い中国で、著者が直接見聞きし体感したことを一冊にまとめた。
桃園の誓い、赤壁の戦い、そして五丈原ー。三国志ゆかりの地を巡り、中国と日本の過去と現在と未来が交錯する旅へ。いざ、ご一緒に。
勢力図は、見知った感じでしたが、都市には、驚きました。それは“主な都市”なのに、その数 56 でした。
“中国を知る旅”のガイドには、この地図を手元に置きながらでないと迷子になりそうで、コピーして読み始めました。
最初の「正史と演義」で、三国時代の成り立ち、正史の三国志と古典歴史小説の三国志の違いなど、三国志の基礎知識が分かりやすく書かれています。
“知ってたつもり”の三国志が、ちょっとましになりました。
著者が三国志の聖地を巡り、現代中国の国境地帯を巡った連載記事ですので、一話(一都市)ごとにまとまり、読みやすい分量(文量)です。
順に読んでいくのも良いでしょうが、気になる“ゆかりの地(聖地)”や、関心のある“周辺地”を選んで読むと、新しい発見が面白さ(楽しさ)を増してくれる気がしました。
「三国志の中国」と「現代の中国」を読み比べながら、知らない中国、驚きの中国、興味わく中国…、楽しく読みました。
本書を持って、ちょっと中国へ…とはいかないでしょうが、あなたも三国志の中国へいかがですか。
お薦めの一冊です。
目次
旅のはじめに
第一章 正史と演義──三国志と中国のガイド
コラム 意外と知らない中国の素顔①
第二章 三国志聖地巡礼──中国を知る旅
こらむ 意外と知らない中国の素顔②
第三章 三国志の周縁地を歩く──ルポ・ディープチャイナ
コラム 意外と知らない中国の素顔③
解説 三国志の舞台 渡邉義浩(早稲田大学)
旅のおわりに
参考文献
【関連】
◇坂本 信博@「三国志を歩く 中国を知る」発売中!( X )
2025年02月09日
『みえるとかみえないとか』(ヨシタケシンスケ・作/伊藤亜紗・相談)

宇宙飛行士のぼくが降り立ったのは、なんと目が3つあるひとの星。普通にしているだけなのに、「後ろが見えないなんてかわいそう」とか「後ろが見えないのに歩けるなんてすごい」とか言われて、なんか変な感じ。ぼくはそこで、目の見えない人に話しかけてみる。目の見えない人が「見る」世界は、ぼくとは大きく違っていた!
でも、「ヒト」と「イキモノ」なのかな…。
お話は、“うちゅうひこうし の ぼく”が、いろいろな星の調査に出ているところから始まります。
ぼくの行動や思ったことは、活字で書かれています。星のヒトとの会話は、手書き文字になっています。
ぼくが星に着いて出会ったのは“うしろにも目がある”人達でした。
彼らが言います。
え?! キミ、うしろが みえないの?その人達は、困っているのではと、とても気をつかってくれました。
えー?! ふべんじゃない? かわいそう!
調査を続けて、あるヒトに出逢い…。
“「みえる」とか「みえない」とか”は、視覚障害のことになるのでしょうが、それも視点が変わると、障害なのか普通なのか分からなくなってきます。
“ちがうこと”は、どういうこと。
“あたりまえ”って、何だろう。
“めずらしいひと”だったら、どうしてほしい。
子供といっしょに読んでみたい絵本です。
お薦めの一冊です。
【関連】
◇ヨシタケシンスケ公式web
◇伊藤亜紗 (@gubibibi)( X )
【関連;これまで紹介した本・絵本から】
◇『しばらくあかちゃんになりますので』(ヨシタケシンスケ・著・絵)(2024/11/24 集団「Emication」)
◇『ちょっぴりながもち するそうです』(ヨシタケシンスケ・著)(2024/09/23 集団「Emication」)
◇『なんだろうなんだろう』(ヨシタケシンスケ・著)(2024/05/25 集団「Emication」)
◇『メメンとモリ』(ヨシタケシンスケ・著)(2024/05/04 集団「Emication」)
◇『おしごとそうだんセンター』(ヨシタケシンスケ・著)(2024/04/28 集団「Emication」)
*検索 「ヨシタケシンスケ」 集団「Emication」
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2025年02月08日
『ハイパーたいくつ』(松田いりの・著)

迷惑系給金泥棒として職場で疎まれている「ペンペン」。鬱屈した毎日がついに限界を迎えたとき、壊れた言葉が壊れた風景を呼び起こす。リリカル系日常破壊小説、爆誕! 第61回文藝賞受賞作。
【日常から退屈を引き剥がすつもりが、なぜか服も人生もすべてボロボロに――】
職場では1000倍の支払いミス。私生活では高額な衣服の買いすぎでクレカ借金。62万円課金したジャケット姿は無様なペンギンに似ているから「ペンペン」呼ばわり。そんな日常がひたすら退屈。
「私は大人になれるだろうか。大人になれなければせめてペンペンとして溺れる姿をみんなに見せなくてはならないのだろうか――」
鬱屈アンド窮屈な現実がついに崩壊するとき、壊れた私の壊れた言葉が、壊れた風景を呼び起こす。
言葉が現実を食い破る、超現実アルティメット文学!
○ 「これは面白い」と感激した。とあって、楽しみな作品です。
○ 恐怖と笑いが同時に腹の底からせり上がってくる。
○ 発狂ぎりぎりで瞼の裏側に現れる万華鏡のよう
○ 読後感は"瀕死"だった。
○ 言葉が勝手に“来る”。その速度と乱暴さが気持ちいい。超、面白いです。
ただ、「リリカル系日常破壊小説」や「アルティメット文学」は、美しいとか優しい、究極といった言葉(単語)でなく、“カタカナ表現”ではイメージがし難く、作品から“笑撃”を受け取れるのか、ちょっと心配しながら読み始めました。
読み進むと、紹介にあった通りに「言葉が勝手に来る」のですが、そのリズムと言葉に乗りきれず、“置いて行かれた”印象でした。
リズムに乗りきれなかったのは、節や章は設けられてなく、年寄りには息継ぎのできないような言葉の攻めだったからでしょうか。
そして、気づけば、話の“あり得なさ”に笑いが込み上げてきていました。
こうした話に、初めて出会いました。
“たいくつ”なあなた、読んでみませんか。
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2025年02月01日
『婚活マエストロ』(宮島未奈・著)

〈あらすじ〉
40歳の三文ライター・猪名川健人は、婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を書く仕事を引き受ける。安っぽいホームページ、雑居ビルの中の小さな事務所……どう考えても怪しい。
手作り感あふれる地味なパーティーに現れたのは、やけに姿勢のいいスーツ姿の女性・鏡原奈緒子。場違いなほどの美女だが、彼女は「私は本気で結婚を考えている人以外は来てほしくありません」と宣言する。そして生真面目にマイクを握った――そう、彼女は婚活業界では名を知らぬ者はいない〈婚活マエストロ〉だった。
その見事な進行で、参加者は完全にマエストロ・鏡原の掌の上。彼女は何者なのか、なぜこんな会社で働いているのか、〈マエストロ〉ってなに……謎は深まるばかりだが、猪名川は同社のイベントを手伝うことに。65歳以上のシニア向け婚活パーティーから、琵琶湖に向かう婚活バスツアー(クルーズ船「ミシガン」に乗車)まで。これまで結婚に興味のなかった猪名川も、次第に「真面目に婚活するのも悪くないかもしれない」と思い始める。
ものは試しと他社が運営する婚活パーティーを訪れてみると、そこには参加者として席に座る鏡原の姿があった――。
本屋大賞を受賞作、そして2作目とも、成瀬あかりを主人公にして、滋賀県大津市の膳所が舞台の物語でした。
本書は、静岡県浜松市を舞台にしています。そのことについて、「好書好日」のインタビューで、次のように述べています。
――今回の舞台は浜松です。宮島さんは静岡のご出身ですが、浜松ではないんですよね。読んでいて、浜松市が舞台であることは気になりませんでしたが、人気の“成瀬”の愛する滋賀県から離れて大丈夫かと思いましたが、途中で“琵琶湖周遊観光船の「ミシガン号」”が登場し、安心するような気分になりました。
そうです。浜松は行ったことなくて。「ミシガン」に行くに当たって日帰りできる距離を考えた時に静岡になったんです。そしてある程度、規模感のある都市じゃないと人が集まらないと思ったので、人口が多めの静岡県浜松市にしました。でも実際に静岡の人から「違和感がなかった」と言って頂いたのでよかったです。静岡の人たちもすごく喜んで下さってますし。
「ミシガン」があって、舞台を選んでいたそうです。流石です。
主人公・猪名川健人、その数少ない友人、そして同級生、取材先の婚活会社の社長、そこで「婚活マエストロ」と呼ばれる鏡原奈緒子、婚活パーティーの参加者…
登場する人々が、「こんな人いるよな…」と親しみがあり、そして個性的です。
婚活に参加したくなったり、浜松市に行ってみたくなったり…。
第1話から第6話まで、読み始めたら止まらない作品でした。楽しく読み終えました。
お薦めの一冊です。
目次
第1話 婚活初心者
第2話 婚活傍観者
第3話 婚活旅行者
第4話 婚活探究者
第5話 婚活運営者
第6話 婚活主催者
【関連】
◇宮島未奈 (@muumemo)( X )
◇【祝・本屋大賞! 宮島未奈最新作・全文無料公開中】「婚活マエストロ」第一話(WEB別冊文藝春秋)
◇宮島未奈さん「婚活マエストロ」インタビュー 本屋大賞「成瀬」後第1作、40代の実感を反映(好書好日)
◇『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈・著)(2024/03/31 集団「Emication」)
◇『成瀬は信じた道をいく』(宮島未菜・著)(2024/04/20 集団「Emication」)

タグ :読書
2025年01月26日
『シルバー保育園サンバ!』(中澤日菜子・著)

前書の主人公が“グランパ”(祖父)でした。本書の“シルバー”(高齢者)は男性も女性もありそうですが、定年退職した男性が主人公でした。
読み始めて、同じ著者の作品なのだと分かりました。「仕事だから…」を言い訳に、家庭のことを妻に任せきりにして生きてきた“旧い男性”を描いた物語でした。
何歳でも人生はやり直せる! ハートフル小説
銀治は、定年退職後に妻から離婚を言い渡され、孤独で怠惰な日々を送っていた。暇を持て余し、シルバー人材センターからの様々な仕事を担っている。ある時、保育園の草むしりの仕事が入り、担当することに。銀治は、人と接すること、特に女性と子どもは大の苦手。渋々保育園に向かうが、次々に巻き起こるハプニングに対応し、その活躍が認められた銀治は、熱烈なリクエストによりそのまま嘱託職員となるはめに。
当初は銀治を怖がっていた子どもたちもだんだん慣れてなつくようになり、人付き合いが苦手な銀治も徐々に保育士たちとも打ち解けていく。日々、子どもや周囲の人たちと接するなかで、孤独だった銀治の心には少しずつ変化が。そんなある日、定年退職後に離婚し離れて暮らす娘について、衝撃の事実を知る――。そして銀治は、自分自身が蔑ろにしてきた「本当に大切なこと」に向き合うようになっていく。長い間蓋をしていた感情が蘇り、前向きに変わっていく銀治。勇気を振り絞って行動することや、あきらめないことの大切さ、いくつになっても後悔は取り戻せるということ・・・・・・。
人生に大切なたくさんのことを笑いと共に教えてくれる、人生応援小説。
銀治は月野市のシルバー人材センターに所属する嘱託職員だ。長年勤めてきた警備会社を65歳で定年退職してから3年、暇な時間を持て余し、半年ほど前にセンターに登録した。以来、おもに家の片付けや掃除、庭木の剪定や草むしりなどの依頼を担っている。仕事一筋の生活だった銀治は、妻から定年に合わせて離婚を言い出され、妻と娘は家を出て、一人で暮らしです。
ある日、シルバー人材センターから保育園の草むしりの仕事を依頼されます。
園庭の草むしりをしているだけなのに、園児に泣かれてしまいます。
「だいじょうぶだよ、みんな。このおじさんはね悪いひとじゃないの。草むしりに来ただけ。顔は怖いし、からだもおおきいけど、それだからね」子供をなだめる保育士の言葉に、トゲを感じながらも…。
草むしりの仕事をしにきた銀治が、保育助手として保育園に勤務するようになります。
人付き合いが苦手、女性や子供との接し方が分からない銀治には、知らないこと、できないことばかりですが、周りの助けを得て、保育園の仕事を続けていきます。
「じつはね……わたしが気になったのは家のようすよりも、3歳だという弟の光喜くんのほうなんだ」自閉スペクトラムの男児の行動、保護者の言動…
「え。どうしてですか」
「銀治先生は『きょうだい児』ってことば、知ってますか」
「いや初めて聞きました」
家を出た娘のようす…
保育園での出来事、子供とのふれあい、我が子との関係…
楽しいこと、悲しいこと…
「え、顔?」“生きてる”って顔に変わっていったのは…
「うん。前はなんていうか……なにごとにも興味がないっていうか、なにがどうなってもいいやっていう諦め、いや諦めじゃないか、関心がないって顔してた」
「いまは違いますか」
「ああ、なんていうか……生きてるって顔している」
高齢者になっても、何歳になっても、前に歩み出す“勇気”をもらえる気がする「笑ホロ小説」でした。
みなさんにお薦めです。
目次
夏
秋
冬
春
【関連】
◇『PTAグランパ!』(中澤日菜子・著)(2016/10/04 集団「Emication」)
2025年01月25日
『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』(村木嵐・著)

面白く読みましたが、この記事を書くときに、本書が『まいまいつぶろ』シリーズの2作目で、スピンオフ作品となっていることを知りました。
「二間先の音まで聞こえるが、上様の言葉だけ聞き取れない。
せめて、お心は解したい--。」
青名半四郎。又の名を、万里。
徳川吉宗・家重の将軍二代に仕えた御庭番は、江戸城の深奥で、何を見、何を聞いたのか?
隠密秘話に胸熱くなる、『まいまいつぶろ』完結編。
麻痺を抱え、廃嫡も噂されていた九代将軍・徳川家重と、彼の言葉を唯一聞き取ることができた側近の忠光。二人の固い絆を描き、日本中を感涙の渦に巻き込んだ『まいまいつぶろ』から一年。
徳川吉宗の母・浄円院の口から出た孫・家重廃嫡の真意とは。
老中首座を追われた松平乗邑が向かった先は。
家治が父・家重の言葉を聞き取れなくなった理由。
折り紙一枚も受け取るなと厳命された忠光の妻・志乃の胸の内。
そして、全てを見てきた隠密、万里が最後に会いに行った人物とは……。
次の将軍を継ぐべき長福丸には、半身に麻痺がある。たいそうな難産だったそうで、そのときの障りで口は動かすことができず、手は震えて筆も握れぬという。第9代将軍となる徳川家重(幼名・長福丸)が呼ばれた陰口(?)でした。
そのため長福丸は己の考えを伝えることも、侍女に指図することもできない。(略)
“御庭番”は、第8代将軍の徳川吉宗が設けた幕府の役職で、将軍から直接の命令を受けて秘密裡に諜報活動を行いました。
本書は、徳川家重と通詞の大岡忠光に関わる人々、出来事について、御庭番の「万里」(青名半四郎)が耳にしたこと(聞いたこと)、目にしたこと(見たこと)の5つの物語です。
前作や史実を承知しませんが、どの物語も読み切りとして楽しめますし、連作としてわくわくして読めました。
前作を読んでいれば、スピンオフ作品として、新たな楽しみがあったものと思います。
徳川吉宗、徳川家重、徳川家治、大岡忠光、浄円院、松平乗邑、田沼意次…
家重の生きた時代、江戸の政を味わってみませんか。
お薦めの時代小説です。
目次
将軍の母
背信の士
次の将軍
寵臣の妻
勝手隠密
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