2019年06月11日

「甘泉寺夜話(1 開山さま)」(つくで百話)

花0611。 朝,思いもよらず晴れていました。日差しがあり“晴れた日”が予感されました。
 しかし,その後曇ってきて,昼頃には雨が降ってきました。
 変わりやすい天候の一日でした。


 夕食に,キュウリがありました。初物です。
 じゃがいも,玉ねぎ,そしてキュウリと,旬を味わいます。
 自然の恵みに感謝。美味しゅうございました。



 『つくで百話』(1972・昭和47年 発行)の「文化財と信心」から紹介です。
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    甘泉寺夜話
一 開山さま

 今から六百年程前に,開山さまは,近江の国の永源寺からお出でになって,此の寺をお創めになり大勢の弟子をお育てになりました。大そう高徳のお方で,お亡なりになってから,称光上皇から禅師の位を贈られ見性悟心禅師と申上げるのであります。
甘泉寺0611。 本堂の右手に,開山さまをお祭りするお堂があります。開山堂と言いまして,開山さまの木像が安置してあります。
 もうずっと以前に亡くなられた和尚さんの話
「開山さま,お風呂が沸きました。お入り下さい。」と案内に行っでしばらくすると,風呂場で湯を使はれる音がします。私達は,それからしばらくして,お風呂を頂きます。」
 また,往年の寺役だった人は
「開山さまは,お寺に慶び事があった時とか満足に思はれるような時には,本堂で大きな音を立てなさる,この音を聞いた人は何人もある。」
「悪戯かすると,開山堂へ入れて戸を締めるぞ。」というと,
 悪童は一ペんに震え上がってしまう,恐ろしくもある開山さまであります。
 あまり遠い昔のことではありません。或寺役の一人が,或朝方夢を見ました。
 開山堂の前に立っていると,総門のあたりが賑やかになって,大勢の人が石段を上り,鐘楼のそばを通って,庫裡の方へ行きます。
 春の日のようでした。
 黒っぽい着物を着た男女が,急いで庫裡の方へ流れて行きますが,誰一人振向こうとはしません。その様子を見ていると,突然
「事が極まったら,私を思い出すだろう。」
 開山堂の中から声がありました。
 振り返ると,扉が僅に開いた堂内に,開山さまの眼が,キラリと光って見えました。
 夢はそれで終りましたが,寺役の人は,此の夢が忘れられず,二三日その意昧を考えました。
 其の頃寺内には,ごたごたした問題が起っていたので,それと結び合はせて考えないわけにはいきませんでした。
 それからその寺役さんは,牡丹餅だの,饅頭だの,お寿司だのを作って,三日に亘って開山堂ヘお参いりをしました。
 三日目でした。いつものように,お線香,お燈明,お茶,ご馳走とお供えして,般若心経を繰返し繰返し称えていました。暫くすると,本堂の廊下を,トウトウと踏み嗚らして,やって来る足音がするではありませんか。
 寺役さんは,ハッと気がつくと,全身の毛がソソケ立ち,吃驚仰天して外へ逃げ出しました。
「失敗った!」と思ったが,再び堂内へ立もどる勇気は出ませんでした。
 本堂に人影はなく,あたりには午后の陽が明るく照っていました。
 寺役さんは,体の中身を抜かれた思いで,フラフラと参道を降って来ると,和尚さんが竹箒で掃除をしていました。
「やはり少しウトウトしたんだね,開山さまの足音だったでしょうが,驚いて逃げ出した自分の不甲斐なさが残念でなりません。
 寺内の紛争も開山さまの思召通りに解決されるものと私には思はれます。」
と,此の寺役さん後日人に語ったといはれます。
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Posted by ガク爺 at 19:19Comments(0)作手