2023年09月23日
秋分。雷乃収声。『街に躍ねる』(川上佐都・著)
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さらに、七十二候の一つ「雷乃収声」(夏の間に鳴り響いた雷が収まり夕立の回数も減ってくる頃)でした。
秋分の日は、春分の日と同様に昼と夜の長さが等しくなる日とされます。また、秋分の日を中心とした1週間は「秋の彼岸」で、その中日である秋分の日にお墓参りに行ったり、祖先を供養する法要が営まれます。
「人の命」「生きること」について、普段以上に深く考える一日です。
みなさんは、どんな一日でしたか。
机に向かって絵を描く男の子、床のマットに寝そべる男の子のいる部屋が描かれた表紙、裏表紙は青空が綺麗な街の景色の『街に躍ねる』(ポプラ社・刊)を読みました。
帯に、「第11回ポプラ社小説新人賞」特別賞受賞作とあり、俳優の伊藤沙莉さんの言葉、
普通とは、 / 特別とは、 / 大変とは、から、興味をもって本書を手にしました。
人と意見や見方が違っても自分がどう思うかを自分の中で大切にしたいと思った。
小学生五年生の晶と高校生の達は、仲良しな兄弟。物知りで絵が上手く、面白いことを沢山教えてくれる達は、晶にとって誰よりも尊敬できる最高の兄ちゃんだ。物語は、小学5年の晶が一人語りして進みます。第二章は母の朝子の一人語りです。
でもそんな兄ちゃんは、他の人から見ると「普通じゃない」らしい。晶以外の人とのコミュニケーションが苦手で不登校だし、集中すると全力で走り出してしまう癖があるから。同級生や大家さんとの会話を通じて、初めて意識する世間に戸惑い葛藤する晶だが、兄と交わした言葉を胸に日々を懸命に生きていく。
読んだ後にきっと誰かを大切にできる、人と人との関わりの物語。
「国語びん」と書かれた左手、“稲荷通りマラソンの新記録”を狙って走っているぼく…。
忘れないように手にメモした言葉は、本人にしか分かりません。国語でいるものだろが、“びん”って何だろう…。
新記録を出せるのは自分だけ…。きっと、稲荷通りマラソンは晶だけのもの…。
大人の誰もが経験しただろう“子供の頃”が見られます。
その晶が家に帰ると、大好きな兄がいた…。
友達のシンジュ、鮎川、権ちゃん、南優香と…。
人とのコミュニケーションが苦手な兄だけど、弟からは…。
“世間”を懸命に生きる兄弟そして家族のようすから、普通って、当たり前って何だろう語りかけられ、ふと立ち止まるお話でした。
子育て世代の大人にお薦めの一冊です。
読書メモ「気になったことば」
○ 「二人には言うなよ」
兄ちゃんは言った。二人とはもちろんママと父ちゃんのことなので、ぼくは、もしそれが本当なら(略)
「問題は二人が、言いたいときに言えたかどうか、だから」
○ ほんとうは真樹(まき)という名前なのだが、「これからおれのこと、音読みで読んでくれ」と言われてから、シンジュと呼んでいる。
○ 話したいことはたくさんあるような気がするけれど、ぼくの知っている日本語で使えるものはなかった。どちらかというと、漢字になる前の象形文字のほうが、いまのぼくの気持ちを表せる気がする。
○ 「晶は自分がジャンプできるから、みんなジャンプできると思っただろ」
「ちがうの?」
「ジャンプしたくてもできない人がいれば、ジャンプという概念がない人もいるし、絶対ジャンプしたくない人もいる」
○ 「は? あうyが言っているのは、みんながやることが『ふつう』ってことだよ。おかしいって思われるのがいやなら、みんなと同じことすればいいじゃん」
○ 回数が増えると運動不足でrは片付けられなくなった。獣が持つような集中力を放って走る達は、知らないところへ行ってしまいそうで怖かった。
目次
第一章 兄弟であるための話
第二章 朝子の場合
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