2024年03月20日
春分の日。 『ともぐい』(河崎秋子・著)
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「春分」は二十四節気の一つで、太陽が真東から昇って真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ同じ(厳密には真東や真西ではなく、少しずれており、すでに昼の方が数分長くなっている)になります。
気候の変化に留意しながら、春の陽気を楽しみましょう。
第170回直木賞受賞作『ともぐい』(新潮社・刊)を読みました。
著者の作品を初めて読みました。
厳しい自然の中で、獣と対峙するなかで、それぞれの“命”が描かれ、その“姿”が浮かび迫ってくる小説でした。
第170回直木賞受賞作! 己は人間のなりをした何ものか――人と獣の理屈なき命の応酬の果てには
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。
人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
本書を手にして、“ともぐい”する獣の刃がぶつかり合うように見える表紙が印象的で、惹かれました。
扉を開くと、北海道東部の手つかずの山の中、漁師(熊爪)と犬が、笹を一心不乱に食んでいる一対の立派な角をもった鹿を狩ろうとする場面です。
熊爪は唇を窄め、ヒュッと音を出した。(略)一発を撃つまでの山の中のようす、熊爪が感じる鹿の思い、そして熊爪と鹿との駆け引き…。
一発で仕留めた。二発目を撃ち込む必要はない。鹿の、一瞬だけ上げられた首に弾丸は迷いなく命中していた。
雪の上に血しぶきが散り、鹿は横向きにどうと倒れこむ。
「とった」
喜びが口を突いて出た。当たった、でも、勝った、でもなく、獲った。(略)
熊爪の背後から、息をひそめて一緒に鹿を見ているような情景が浮かび、物語に引き込まれました。
その後に描かれる、獣の皮膚を切り開くようす、体に手を突っ込み臓物を掴むようす、そこから滴る血の流れや漂ってくる臭い、生々しく目の前で起こっていることのようです。
山の中の小屋で犬と共に過ごし、家族のいない熊爪は、猟師の養父から“自分と同じような猟師”として育てられました。
その養父は、老いるとどこかに消え、一人で死んでいったと思われます。
猟師として生きること、自給自足の生活をする、必要なときだけ山を下り白糠の町に行く…、それが熊爪の暮らしであり、幸せに過ごしていました。
山の“幸せな暮らし”に異物が入り込み、乱れが生まれてきます。
穴持たず熊、赤毛熊、日ロ戦争の足音、盲目(?)の陽子…
熊爪が闘った相手は…。その結果は…。
そして訪れた熊爪の温かい日常は…。
最後、熊爪に伴っていた犬が…。
明治という時代、厳しい自然の中で生きること、今とは違う価値観そして熊爪の生き方に共感はできないが、そこに引き込まれます。
みなさんにお薦めの小説です。
目次
一 冬山の主
二 人里へ
三 異物来たる
四 狩りと怒り
五 春の孤闘
六 根腐る
七 再び熾る
八 毛物
九 化者
十 片割れの女
十一 喰らいあい
十二 とも喰らい
【関連】
◇カワサキ (@kawasakicheese)( X )
◇直木三十五賞(公益財団法人日本文学振興会)
◇白糠を舞台とした小説「ともぐい」が第170回直木賞を受賞しました(白糠町)
◇直木賞受賞 河﨑秋子さん 「ともぐい」に込めた思い(NHK北海道)
Posted by ガク爺 at 17:00│Comments(0)
│読書
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