2021年02月03日
立春。昔話を運んだ旅商人 (つくで百話 最終篇)
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立春は「雑節」の起算日ともなっており,「八十八夜」は立春から88日目の日です。暦の上では旧冬と新春の境い目にあたり,今日から「春」となります。
今日,ほうらいせんの立春朝搾りで,良き年を願いました。
立春の未明に搾りあがったお酒をその日のうちに楽しめる縁起酒です。酒屋さんが地元の蔵元まで足を運び,神主さんのお祓いを受けたしぼりたてのお酒です。美味しゅうございました。
『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「民族と伝承」の項でコラム的に載っている記事です。
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昔話を運んだ旅商人
昔は遠国からの旅商人が,作手郷にも大勢やってきた。越中富山の反魂丹で知られていた富山の薬売り。薬売りは大和・近江などからもきた。信濃路からくる鋸や金物商い,浜辺からくる煮干や乾魚売りなどが続々やってきた。これは,明治・大正の頃までもつづいた。宿屋に遠い私の家などは,これらの旅商人で定宿としているものもあった。
「今晩は,またご厄介になります。よろしゅう」といって,顔馴染みの旅商人がやってくると,親類のおじさんがお客に来たような親近感をもって迎えたものだった。夕飯がすんで囲炉裡の榾火を囲んで,お土産にもらった一里玉(黒砂糖でつくつた飴玉)を頬張りながら,
「今夜は何を話してくれるかい」と,催促する私らを前にして話してくれるおじさんの話は,全国各地の伝説や昔話であった。私たちは,あれこれ想像を逞しゅうしながら,旅のおじさんの話に聞きいるのであった。
旅商人のおじさんたちは,揃いも揃って話上手であったから,子供だけでなく大人も集ってきて耳を傾けるのであった。これらの旅商人が運んできた昔話のたぐいが,作手郷のあちこちにばらまかれていた。時がたつ中に,おじさんの話の中にあった池や渕が,いつのまにか作手のそれに変ってしまったのもあった。かくて作手村だけでも,膳椀渕が五つも六つもできたものである。
(峯田通悛)
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